彼女への事情聴取は7回にも及んだ。20年前の記録に秘められた「彼女の物語」とは……。今回は検索型推理アドベンチャーゲーム『Her Story』のご紹介です。ネタバレはありません。
Contents
基本情報
『Her Story』
ジャンル:アドベンチャー, 独立系開発会社, シミュレーション
開発元:Sam Barlow
パブリッシャー:Sam Barlow リリース日: 2015年6月24日
プラットフォーム:Win/Mac OS/iOS
(2016/11/28現在 SteamおよびPLAYISM版のみ日本語対応)
Steamページ
http://store.steampowered.com/app/368370/
このレビューは2016年11月24日にリリースされた公式日本語版を元に作成されています。
この記事を書いているsakimitamaはこんな人
子供の頃からゲームが好き。上手くはない。アクション・アドベンチャー・シミュレーションなんかが好き。長年、家庭用ゲーム機ばかり遊んできたが、最近ハードの世代を気にするのがめんどくさくなりSteamに手を出した。が、立ちはだかるMac OSの壁に絶望、ドスパラを眺める毎日を送っている。『Her Story』はすべての動画を視聴済み。
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『Her Story』はこんな人にオススメ
ミステリ・サスペンスが好きな人
2時間ドラマが好きな人
過去の事件を追う刑事の気分になりたい人
検索力に自信のある人
仮設を立てて検証するのが好きな人
このゲームについて(Steamサイトより引用)
Her Storyとは、サイレントヒル シャッタードメモリーズのクリエイターでもあるサム・バーロー(Sam Barlow)が作り上げた全く新しいアドベンチャーゲームです。
警察のデータベースに保存されている事情聴取映像の分割データを1つずつ調べていくことで、ストーリーが少しずつ明らかになっていきます。ビデオに写っている女性を演じた、ヴィヴァ・セイフェルト(Viva Seifert)の演技がこのゲームの根幹をなしていると言っても過言ではありません。Bafta, IGF, GDC, The Game Awards 2015など、様々な賞を総なめにしたのは彼女の演技あってのものでした。
ストーリー(Steamサイトより引用)
1994年のイギリスで、一人の男性が行方不明となる事件が発生した。 その男性の妻とされる女性に対する事情聴取は数日間、7回にも及び、その際に録画された映像は警察のデータベースに保存されている。 プレイヤーは警察の端末を操る人物となり、分割された事情聴取映像を元に事件の手がかりを探っていく。 動画内に散らばるキーワードを元にデータベースを検索し、事件の真相を導き出しましょう。
……え?で、どんなゲーム?
警察の古いデータベース端末を操作して、過去の映像を検証し、映像に映る「彼女」の物語を解き明かすゲーム。気になる単語で検索→映像をみる→さらに他の単語で検索→映像をみる の繰り返し。それだけなのにすごく楽しい。
プレイヤーが検索欄にどんな言葉を入れようとも、彼女の物語に影響をおよぼすことはできません。できるのはただ事実を「知る」ことのみ。はたしてこれは「ゲーム」なのか?という話もあったりしますが、彼女の映像を見続ける中で、特別な体験ができるのは間違いありません。
私は「推理小説の登場人物になって、過去の事件を解き明かしていく」気分に浸ることができました。その感覚は従来の推理ゲーム、例えば『かまいたちの夜』や『ダンガンロンパ』、『逆転裁判』などのストーリーに沿った作品をプレイした時とはまた違っていて、「必要なものはすべて用意した、ストーリーを知りたければ勝手に調べろ!」的な不親切さや割り切りが、現実のそれっぽくて楽しかったです。
女優さんがめっちゃイイ
ゲームの説明にもありますように、歌手で女優のヴィヴァ・セイフェルトさんの演技が良い、とてもとても良いのです。ネタバレしちゃいそうなので、どの辺がいいかなんてコメントはできませんが、彼女こそゲームの根幹、『Her Story』そのもの。一気に好きになっちゃいました。彼女がヴィヴァさんでほんとに良かった。
よくぞ日本語版を作ってくれました
『Her Story』はそのプレイシステム上、他のゲームよりもより正確に、あるいは柔軟に訳文を作る必要があります。
システム的な主役はテキストですが、ゲーム的な主役は「映像」であるため、映画字幕のように、もとの映像を邪魔せず一瞬で理解できる長さの自然な日本語にしなければなりません。
さらに、このゲームではプレイに支障がないよう、つまり「きちんと検索できる」かどうかも意識しなければなりません。ちなみにこれは「関係ない動画が検索に引っかからない」ように訳す、ということでもあります。
検索から漏れても、また、検索できすぎてもいけない。英語独特の言い回しもあるだろうし、関係ない文脈でキーワードを使うことで、プレイヤーにヒントを与える、そんな単語もあるわけですよ。
ちょっと考えただけでも「日本語版作るの絶対大変!超大変!」となるこのゲームを、よくぞまぁ日本語に訳してくださいました。普通のゲームの何倍も大変だったと思います。おかげで素晴らしい体験ができました。PLAYISMさん、お疲れさまでした。そしてありがとうございます。
また、公式に日本語版が発表されるまで、有志で日本語訳を作り公開してくださっていた[S.W]yupika.jpさん、あなたの日本語訳で多くの人がこのゲームを楽しんだからこそ、私はこのゲームの名を知ることができました。ありがとうございます。
多人数プレイもオススメ
『Her Story』は2~3人でやっても面白いです。多人数プレイといっても、マリオカートやカービィ的な対戦・協力プレイではなく、「事件の真相はこうなんじゃないか?」「この単語が怪しい」などとディスカッションを楽しむ多人数プレイです。
私はミステリ好きの家族と一緒にプレイしました。「実はXXXXなんじゃ?」「と見せかけてXXXXなのでは?」→(検索)→「ええええええぇ!なにこれXXX!!」なんて会話しながらのプレイは超楽しかったです。ミス研時代の友人たちとだったら、もっともっと盛り上がっただろうに。あぁ、記憶を消してもう一度プレイしたい……。
もし身近にミステリ好きがいるならば、ぜひ多人数プレイも検討してみてください。
プレイのヒント
これから『Her Story』をプレイしようとする方へ、快適にプレイするためのヒントをいくつかご紹介します。内容に関するネタバレはありません。
聞き込みの刑事ばりにメモを取りまくろう!
アナログでもデジタルでも構いません。とにかくメモをとりましょう。意識すべきは彼女の言葉だけではありません。すべてに注視して、気になるもの・整理したい情報すべてを記録に残しましょう。
このゲームはメモ必須だと思います。とくにh(自主規制
がんばってね!
表記ゆれに注意!
事件が起こったのは1994年。PCはほとんど普及しておらず、グーグル先生もSiriちゃんも存在すらしていません。使用されているOSもDBもその機能は基本的なものにとどまり、目的の情報にたどりつくには正確な指示が必要です。
つまりどういうことかというと、プレイヤーが使用するシステムは「表記ゆれ」に対応していません。
犬という単語が含まれる動画を検索したい場合、正確に「犬」と入力する必要があります。「いぬ」でも「イヌ」でもいけません。重要なキーワードそうなのに結果が1件も出てこない場合は、表記をかえて試してみてください。
単語の活用に注意!
日本語は活用や表現も自由&複雑。「走る」的な状況を表現したい時、走る・走りながら・走って・走った・走ろうと……と、それはたくさんバリエーションが存在します。ですので、検索する時は語幹となる部分、例で言うと「走」のみの検索がオススメです。
まとめ:プレイアブル2時間ドラマ?いいえ、これこそがゲームだと私は思うのです!
2時間ドラマを家族と観る時、必ずあーだこーだと真相を予想しあっています。誰が、どの様に、何の目的をもって、事件を起こしたのか。ドラマの内容はもちろんですが、そう予想して答え合わせをするのが楽しいのです。
ドラマでは一方的に進んでいく映像を観て答えあわせをすることしかできませんが、この『Her Story』は自分で言葉を選び検索する、というアクションを起こすことができます。
映像作品でも小説でも、同じ脚本を使えば、アナタは彼女の物語を知ることができるでしょう。むしろ、細かな事情が絡み合ったこの物語は、一方通行のほうがわかりやすいかもしれません。
しかし、彼女の言葉を聞き、疑い、あるいは信じ、次の映像を探し出すため、検索ボタンを押すあの興奮は、再生ボタンを押す時のあの緊張は、この『Her Story』という「ゲーム」という形でしか体験のできないものだと思います。
エンドロールを眺める時、あなたは何を思うのか。彼女とあなたの物語を、ぜひ体験してみてください。以上、『Her Story』レビュー、sakimitamaがお送りしました!おつかれさまでした。