ブックレビュー『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える』寄藤文平

「わかりやすい」ってなんだろう。「デザイン」ってなんだろう。そんなことを考え始めると、頭がグルグルしてきて、わかっていたはずのことまで、わからなくなる。あーあ、何やってるんだろう、自分。なんて思っちゃったりして。

でも大丈夫、そう考えているのは、アナタだけではありません。有名なアートディレクターだって、やっぱり悩んでいるのです。

というわけで、今回は、アートディレクター寄藤文平さんの本、『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える』をご紹介します。

本の基本情報

『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える 』
著者:寄藤文平
出版社: 美術出版社
ISBN-13: 978-4568505078
発売日: 2012/12/7

今回のレビューは2012年12月30日の初版第一刷の内容を元にしています。

なぜ、この本を読もうと思ったのか

以前読んだ寄藤さんの本『ラクガキ・マスター 描くことが楽しくなる絵のキホン』がすごく面白かったので、この本もきっと面白いだろうと思ったから。

ラクガキ・マスターのレビュー記事はこちら↓
絵を描く楽しさを思い出させてくれる一冊。「ラクガキ・マスター」 寄藤文平

私的な「絵と言葉の一研究」

この本はこんな一文からはじまります。

もともとは、デザイナーをやめようかと考えて、この本を作りはじめた。

有名なアートディレクターの書く「絵と言葉の一研究」というと、なんだかとても崇高で立派でありがたいことが書いてあるのだろうと、読む方は勝手に想像してしまいます。

ですが、この書き出しからわかるように、この本は私的な理由から出発した、とても私的な内容の本、自伝のような本なのです。

ヨリフジさんの苦悩

寄藤文平は「ヨリフジさんのタッチ」専用マシーンなのか。

序盤は学生時代や事務所を立ち上げて間もない頃の、焦りや苦悩が書かれています。

特にクライアントから「ヨリフジさんのタッチ」ばかりを要求されてしまう、「ヨリフジさんのタッチ問題(勝手に命名)」に関する話はとても興味深かったです。

31の装丁案

『千利休 無言の前衛』(著:赤瀬川原平)という本をテーマに、寄藤さんが31の装丁案を作っていきます。

この章はさすがプロ!と言った感じ。私のような素人が見ても、とても楽しい内容でした。31個、ただ闇雲に案を出しているわけではなくて、いろいろな視点からアプローチしているんだなーと感動しきり。

「どのようにしてこの案を作ったかというメモ的イラスト」もあるので、いつもパターン出しに悩んでいる人には、考え方の良いヒントになりそう。

「価値」を生み出す

「これには価値がある」と指し示すことで「価値」が生まれる。

この本で一番グッと来た言葉です。(利休について言及した言葉)

私は人の心を動かすような「素晴らしいモノ」を作ることはできないけれど、私が受けた感銘を言葉にし、誰かに伝えることで、その作品に新しい価値を生み出すことはできる。

これは私にとって大きな発見でした。

「この作品は素晴らしかった!」「このイベントは楽しかった!」

そうやって、ほんの少しでも、その価値を高めることができたなら、広めることができたなら、こんなに嬉しいことはありません。

「わかりやすい」ってなんだ!
っていうか、「わかる」ってなんだ!

「第6章 わかるとわかりやすさ」は、副題である“「わかりやすい」デザイン”に焦点をあてた内容。この章に関しては語りたいことが多すぎて、逆に語れない、そんな章です。

まるごと全部すばらしいので、全文引用したいところですが、それではただの無断転載。というわけで、特にお気に入りの一文をご紹介します。

つまり、「わかりやすさ」を考えるというのは、「どうしたら人間は活き活きと考え続けることができるのか」を考えることなのだ。

おぉ〜「一研究」っぽいですね〜!

この他にもすごくすごーく面白い文章があるんです。新しい発見がそこら中にちらばってるんです!でも!でも!それはやっぱり、ひとりぼっちで読んでみて、自分で初めて出会うべきなので、この一文だけにしておきます。

もう、とにかく、読んでください。←ダメなレビューの典型例

まとめ

伝えたい!とか。知りたい!とか。

絵も、文字も、言葉も、そしてデザインも、伝えたいとか、知りたいとか、そういう気持ちから生まれたはず。

こうして私がブログを描いているのも、あなたがこのブログを読んでいるのも、きっと、お互いに何かを共有したいから。

ブログを運営していると、UUとかPVとかブコメとかブコメとか、考える事いろいろあるんですけれど、すべての行動の元となるこの気持ちを忘れないように、これからも頑張って行こうと思ったのでした。

私的な「絵と言葉の一研究」

「研究」とタイトルに入っていますが、この本には結論はありません。最初と同じ様に、私的な文章で幕を閉じます。何の解決もなく、ただ、終わる。というか、続く。

私はこの感じをとても気に入っています。なんだか本物の人生みたいじゃないですか。

『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える』は、寄藤さんの人生と、頭のなかをほんの少しだけのぞくことができる、そんな素敵な本でした。

と、言うわけで、寄藤さんファンのかたはもちろん、装丁・ブックデザインに興味がある方、「わかりやすく伝える」ということについて考えたい方、なんだか最近「創る」ことに疲れたなーという方におすすめの一冊です!ぜひ手にとって見て下さいね!お疲れ様でした!