INDD + dot-Ai 2014に行ってきました!

2014年、10月18日。

秋晴れの空の下、東京は九段下に、文字が好きで、日本語が好きで、そして、それらについて真剣に学びたいという人たちが、全国からたくさん集まりました。

みんなで「文字と組版」に関する知恵をだしあい、共有するためです。

中世の画家が、新しい色を求めて世界中を旅したように、いつの時代でも「作る人」というのは「より優れた表現」「より適した表現」を求めてしまうもの。

「読みやすい組版て、どんなだろう」
「そもそも、文字ってなんだろう」

今回は、そんな気持ちを持った「文字好き」「日本語好き」が大勢集まった、すてきな勉強会のお話です。

おでかけ基本情報
イベント名:INDD + dot-Ai 2014
テーマ:文字と組版
日時:2014年10月18日(土)13:30-18:30
会場:ベルサール九段
定員:260名 主催:DTP Booster実行委員会
参加費:7,000円(ビデオ参加:4,000円)

INDD + dot-Ai 2014公式サイト
http://indd.jp/2014/

はじめに

このエントリーは「セミナーで感じたこと・考えたこと」を主な内容としています。セッション内容をくわしくお知りになりたい方は、ぜひビデオ参加をご検討ください。

基調講演「フォーマットをつくる」

ブックデザイナー、鈴木一誌さんのお話。

美しいレジュメ。

resume

A4・24頁・単色刷り

学生時代、数多くのレジュメを手にしましたが、一目見た瞬間、「美しい」と感じたのは、これがはじめてです。その小冊子は、整頓された部屋のように、見た者の心をスッキリさせてくれる魅力を持っていました。

失礼ながら、私はこの日まで、鈴木さんの事を存じ上げませんでした。もちろん、講演者紹介欄には目を通していましたが、それを読んだ私の認識は「あぁ、あの戸田ツトムさんと同世代の方なんだ。“道”を作ってきた方なのだな」と、ぼんやりと考える程度でした。

けれど、不思議なことに、このレジュメを手にした瞬間、内容に少しも目を通さないうちに、私は、鈴木さんがこれまでやってこられたお仕事のすばらしさや、手がけるお仕事への姿勢や、何を美しいと感じるのか、など、鈴木さんのことをすっかりわかってしまった気になったのです。

自分のことなど一切語っていない、基調講演のためだけに用意されたこの小冊子が、多くの文字を費やされた文章よりも、より詳しく「鈴木一誌」という人間を、私に伝えてくれました。

美しく、気高く、誠実で、そして雄弁なレジュメでした。

したたかなデザイン

お話をうかがっていて、特に面白いなぁと思ったのは「ツールは変わる、変わってもへこたれないデザインを」という部分。これを聞いた時、7月末に行われたAdobeのセミナーで、戸田ツトムさんが「ツールは環境」という表現を使っていらっしゃったのを思い出しました。

お二人とも「最も多くの組版システムを体験した世代」だからこそ、「ツールに左右されないものづくり」を大切にされているのでしょう。

私も、ツールが変わろうが、無くなろうが、変わらない、ブレないものづくりを意識していこうと思いました。ものづくりの根本を思い出させてくれるお話、ありがとうございました。

目的別文字詰め・文字組み、はじめの一歩

森 裕司さん、尾花 暁さんの文字詰め・文字組みに関するセッション。

私のような「超初心者」でも理解できるよう、とてもわかりやすく「文字詰め・文字組み」の基本的な知識を説明してくださいました。

Bestではなく、Betterの中の一つ。

私にとって「文字詰め・文字組み」は、とても恐ろしくて下手に手を出せない、そんな印象をうける世界。それは、自分が作った文字組みを見て「なんだか、すごく気持ち悪い」と感じることはできても、「どうして気持ち悪いのか?」を全く理解することができないからです。

パッケージ・広告・新聞・書籍などなど、私は数多くの「プロに詰められた文字」に囲まれて生活しています。視界に入るだけの文字を入れれば、一日1万字以上、人生で優に1億字以上の「プロに詰められた文字」を目にしている事になります。

その結果、理論を持たず、審美眼だけが高くなってしまった私は「なぜかわからないけれど、とにかく気持ち悪い」でも「どうしたらいいのかわからない」という、混乱に陥ってしまっているのです。

そんな私にとって、今回のセッションはとてもわかりやすく、思っていたよりも簡単で「勉強はたくさん必要だけれども、過剰に怖がる必要もないのかな……」と思わせてくれる内容でした。

プロが作った設定ファイルを使えるというのも、たいへん心強いです。

与えてもらった設定を使って、褒められて安心して満足して終わり、ではなく、「なぜこれらは褒められるのか」「なぜ心地よく、美しく感じるのか」「数値の持つ意味は何なのか」そうやって、一歩ずつ理解していき、いつか自分なりのBestを選べるようになれればと思います。不安を取り除いてくれるセッション、はじめの一歩となるお話、ありがとうございました。

コンポーザーや文字組みアキ量設定で
なにが起こっているのか?

ものかのさんこと、丸山 邦朋さんのセッション。

生産と消費のあいだで

私は文章を書く人間です。そして、印刷された文字を読む人間です。生産から消費までを一本の線にするならば、それぞれの端点にいる人間です。私は今回、そのような立場から、ものかのさんのお話をうかがっていました。

率直に言えば、感動しました。心を打たれました。

それは、端点の間、つまり、生産・加工に携わる方々の苦悩と努力を知ったからです。

「言葉に込められた意味や思いを少しでも保った状態で消費者に届けたい」そう願い、悩み、考え、尽力してくれる方々がいる。この事実は、端点にいる私にとって、たいへんありがたく、たいへん心強いことでした。

みなさん、ほんとうに、ありがとうございます。

10年前、大学の教室で。

10年前、私は、大学の夜間学部に通っていました。夕方まで働いて、電車に乗って大学に行って、学食でご飯を食べて、6時から9時過ぎまで、毎日2コマ、大学の授業を受けていました。

広い校舎には昼ほど生徒はおらず、とても静かで、景色を眺めようと視線を動かしても、窓ガラスに映るのは、教室の照明に照らされた自分自身とクラスメートだけでした。

老若男女が、ただ「学びたい」という共通の想いを胸に、地位も肩書も関係なく机を並べ、ひっそりと先生の話に耳を傾けていたあの時間は、私にとって、なにものにも代えがたい、大切な思い出です。

あれから10年。時と場所を変え、私は再び、あの感覚を体験することになりました。

静まりかえったイベントホールの中で、「文字」について語るものかのさんの声だけが響く。淡々としながらも、とても熱く、強い意志をもって語られるその言葉を、私たちは、一言も逃すまいと、真剣に耳を傾けていました。

鋭く研ぎ澄まされた空間。あの感覚を大人になった今、もう一度味わえるとは思いませんでした。

あの独特な空間は、優れたスピーカーだけでは成り立ちません。優れた聴講者だけでも成り立ちません。優れたスピーカー、そして優れた聴講者、両者がそろって初めてできあがる、特別な空間です。

あの日、あの時、あの瞬間には、ものかのさんの「伝えたい」という想いと、私たちの「学びたい」という想いだけが、存在していたように思います。貴重な体験をありがとうございました。

Illustrator/InDesign両刀遣いテクニック

DTP業界のアマテラスこと、大倉壽子さんのセッション。

適材適所で快適に

Illustrator、InDesign、それぞれ得意なことを知り、業務に合わせてうまく使い分けましょう、というお話。とてもわかりやすく、また、日常にどう活かしていけるのかを想像しやすい、優れたセッション内容でした。

日々、両ソフトを使いこなしている方にとっては、おなじみの機能・使い方なのかもしれませんが、私のようなInDesignをほんの少し触っただけ、という初心者にとって、まさに魔法のようなデモ。

機能の説明に終始するのではなく、それに付随して、こんな風にできるよ、こうすると便利だよと、具体的な例を作って見せてもらうことで、「こんなこともできたのかー、じゃぁあんな事にも利用できそうだな」と、自分で使い道を想像することができました。

自分がその機能を使っているところを具体的に想像できる、というのは、上達の近道であるように思います。すぐに実になる、たいへんわかりやすいセッション、ありがとうございました。

スペシャルセッション:文字の周辺、文字の真ん中

大日本タイポ組合さんのセッション。あらゆる意味で衝撃的だったセッション。そして、私にとって、一番心に残ったセッションでもありました。

楽しんでみせる

お二人は、まるで「文字」と遊んでいるように見えました。(もちろん、文字に対する深い知識と、綿密に考えぬかれた計画があってこそ、というのも、理解しています。)

いたずら好きの子どものように、けらけらと笑いながら文字の話をするお二人を見ていると「なんだか楽しそうだな、自分も何かやってみたいな」そんな気持ちが、自然と湧いてくるのでした。

どんなものでも「楽しそうにやってみせる」というのは、人に興味を抱かせる、大きな力になり得ます。現に私は、「ぜひやってみて!」なんて、一言も言われていないのに、勝手にまねをはじめていました。

sakimitama、ハジメテのインボウ(イラレでエロ)
irarero2

(これ、実際やってみるとわかるのですが、とんでもなく難しいです!)

私はIllustratorが好きで、もっとたくさんの人にIllustratorを使ってほしいと思っています。「Illustratorで遊んでほしい」と願っています。

いつも「どうしたら興味を持ってもらえるか」「どうしたら苦手意識をとっぱらえるか」と、うなりながらチュートリアルを作っているのですが、「まずは自分が存分に楽しむこと」も、忘れないようにしないとな、と反省しました。

今後の自分のあり方について、大きく影響を与えてくれたセッションでした。ありがとうございました。

あの日、私は、文字の世界の入口に立っていた。

Hello,InDesign

はじめてこのイベントの告知を見た時、正直、私はこう思いました。

「どうしてINDDとdot-Ai一緒にやるの?前回のように、Illustratorの話だけ聞いていたかったのに!」

だって、私はIllustratorが大好きで、Illustratorの事であたまがいっぱいになるあの日を、Illustrator好きの、Illustrator好きによる、Illustrator好きのためのIllustratorの祭典を、心の底から楽しみにしていたのですから。

……でも、まぁ、決まってしまったものは仕方ありません。人生何事も経験ですしね……ね。

「そういえば前回のdot-Aiで一番印象に残ったのは文字に関する内容だったな……」
「私、本読むのも文章書くのも好きだし、将来何か役に立つかもしれない……」
と、なんとか、な、ん、と、か、気持ちを切り替えて、当日、少しでもセッションの内容を楽しめるように勉強することにしました。

むかーし買った、文字に関する本をひっぱりだして読んでみたり、InDesignのセミナーに行ってみたり、「文字と組版。」特集の雑誌を買ってみたり……。あまり熱心とは言えませんが、私なりに精一杯「文字と組版」に向き合った3ヶ月でした。

そして、セミナー当日。文字とは……から、文字を使ったアートまで、バラエティに富んだ5つのセッションは、それぞれ違った感情を私の心に沸き起こしてくれました。

まさか、これほどまでに学べ、悩み、考えさせられることになるなんて。ほんと、キャンセルしないで良かったです!

願わくは、私の言葉をあなたに。

私は幼い頃から、文章を書くのが好きでした。それは今でも変わりませんし、これからもきっと変わらないと思います。万が一、私の書いた文章が誰かの手に渡ることがあるならば、あの日、ともに机を並べて学んだ、志高きDTP業界の方々に、私の言葉を扱ってもらいたいな、なんて思ったりしました。

いや、そんな予定、全くないんですけど。けど……ね!

だって、うっかりそう思ってしまうくらい、「文字と組版」を学ぶみなさんの姿は、かっこよかったんですもの。私の言葉を大切にしてもらえる、そう感じたんですもの。

いつも、私たちに「言葉」を届けてくださって、ありがとうございます。私たちが心地よく「言葉」を受け取れるのは、みなさんのおかげです。ぜひ、これからも、よろしくお願いします!

それからそれから

それからそれから、これはとても個人的なことなのですが……。このイベントをきっかけに、写植時代から30年、今でも現役でDTPオペレーターをしている義理の母との、共通の話題が増えたのがとてもうれしかったです。基本、ありがたいお話を恐縮しながら聞くだけなんですけどね!ヒィィィ!

さて、最後になりましたが、DTP Booster実行委員会・スピーカー・その他スタッフの方々、来場者のみなさん、有意義な時間をありがとうございました!とーっても楽しいセミナーでした!次回もすてきなイベント、楽しみにしています!

以上、2014年10月18日、東京九段下で行われた「INDD + dot-Ai 2014」の感想でした。最後までお読みいただきありがとうございます!お疲れさまでした!