「クリエイターのための権利の話」に行ってきました。感想、考えたこと

2018年10月28日、東京都千代田区麹町で行われたイベント「クリエイターのための権利の話」に行ってきました。イベントの感想と、その後考えたことをまとめています。

基本情報

クリエイターのための権利の話
「著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本」発売&重版記念

日時:2018年10月28日(日) 14:00 〜 18:00
会場:LIFULLセミナールーム
参加費:1,000円 〜 2,000円

公式サイト
https://kenribon.connpass.com/event/104516/

セッション内容

セッション1「そもそも著作権はどうして必要なのか」(大串肇/齋木弘樹)
セッション2「〜書籍制作裏話〜 これ入れられませんでした」(大串肇/古賀 海人)
セッション3「本当は怖いSNS」(角田綾佳/古賀 海人)
セッション4「教えて木村先生」(木村剛大)
トークセッション「現場のクリエイターはどうしてる?質疑応答」(著者全員参加)
告知&交流会

どんなイベント?

「著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本」(以下、権利本)の発売と重版をお祝いしたイベント。

本には書ききれなかった話や、「パクられ」体験談、専門家や著者の皆さんへの質疑応答など、細かな視点のお話を伺うことができました。


著者が全員揃うのは、初めてとのこと。
(カメラ目線、ありがとうございます)

権利本って?

「クリエイターの、クリエイターによる、クリエイターのための権利の本」って感じの本。弁護士の方が監修しているだけあって、わりとガチめな内容です。付録として見積書・契約書のサンプルが付いています。

解説には判例が多く掲載され、「著作権法に関する感覚」をつかみやすいと感じました。また「写真・イラスト・デザイン」、「文章・コピー」、「プログラム・ライセンス」などなど、各業界を満遍なく取り扱っており、専門外領域のルールを知ることができるのも本書の特徴です。それぞれ現役クリエイターが担当しているので、内容が実務に即しており、法律系の本なんて読んだこと無い!という方でも、さほど抵抗なく読めるのではないでしょうか。

・著作権、侵害しないように気をつけているけれど、ちょっと不安だなぁ。
・被害者にも加害者にもなりたくないなぁ。
・フリーランスになったけれど、契約書の作り方がわからない。
という方にオススメの一冊。

イベント後に考えたこと

イベントで伺ったお話を元に、あれやこれや考えたことをまとめました。

法律は「ゆるい」

法律って案外「ゆるい」です。ギチギチに決めると、融通が効かなくなって何もできなくなってしまうので、わざとゆるめに作ってあります。今回議題になっている「著作権法」だと

作った人の権利は守りたいですよね、でもこれから作る人の権利もまた大切なのです。って事で、「基本的なルール・考え方」だけ、ざっくり決めておきますんで、後はうまく解釈して、みんなで仲良くいい感じにやってくださいね!

というスタンスだと私は認識しています。

類似しているか否か、という問題において、代表的な判例を見る限り「違法(侵害)」と判断される範囲はかなり狭く、明確な意図を持って模倣しない限り、法的責任を問われる可能性は低いと感じました。もちろん丸パクリは問題外です。

違法でなければ、それで良い?

では、法を犯していなければ、それで良いのでしょうか。クリエイターとして問題なくやっていけるのでしょうか。私はそうは思いません。

モノ作りの世界には、法律以外にも多くのルールが存在しています。法律と同じように明文化されたライセンスや規約。そして明文化されていない、マナーや常識と呼ばれるものたち。マナーや常識は法律よりもさらに曖昧で、その「正しさ」は時と場所によって大きく変化します。

昨今話題になった炎上事件は、違法・ライセンス違反ではないが、(そのコミュニティの)マナー(と思われているもの)を意図せずやぶってしまったがために、起こっているように感じました。

そういうものだから、別にルール違反じゃないから。と、切り捨ててしまうのは簡単ですが、大変危険な行為であると思います。対応へのコストもかかりますし、サービスや作品を不当に批判されてしまう可能性もあるからです。

「平和な」創作活動をしていくためには、法律やライセンスなど、最低限のルールを守ることに加え「そのコミュニティのマナー」を犯していないのか、も考える必要がありそうです。

それは、双方が望んだ結果になりますか?

非常に乱暴ですが、私は裁判も炎上も「人が人を裁いている」という点では同じものだと認識しています。ただ、その判断基準が「法律」か「マナー(と、各自が思っているもの)」であるかの違いだけ。

相手がプログラムであるならば明文化されたルールを守るだけで事足りますが、実際の相手は感情を持った人間です。善悪という判断基準に加え、快不快という判断基準が入ってきます。その場合、相手の感情を「ある程度」尊重する姿勢が重要になってくるのではないかなと思います。

最低限守るべきもの

・法やライセンスを守れているか、相手の権利を侵害していないか

に加え、

・相手のコミュニティ内で許される行為か
・相手はその行為についてどう思うか
・自分はその行為についてどう思うか

・双方にとって望ましい結果になるか

といった視点も持っていたほうが安全なのかもしれません。目に見えない曖昧な基準を元に行動しなければならない、というのが人間社会の難しいところですね。

著作権法は基本的に親告罪なので、相手に許可を得ることで、かなりのトラブルを防げます。

(平成30年の改正により、著作権法の一部が非親告罪になりますが、いわゆる「海賊版」レベルの行為を裁けるようになるといったものですので、侵害してしまうかも?と心配しているような人たちにとっては関係のない話だと私は認識しています。あくまで素人の判断ですので、心配な方は各自お勉強なさってください)

あらゆる人が発信力を持つ時代、法を侵さなければ問題ないという考えは通じづらくなってきました。この先もしばらくは感情が力を持つ時代は続くと思います。そうした社会で上手に生きていくには、「ルールを守った正しい行為」をするだけでなく、「相手の感情をないがしろにしていないか」、「双方にとって望ましい結果になるか否か」という視点で、ものづくりをしていく必要があるのかなぁ、と思ったのでした。

最後になりましたが、著者の皆さま、スタッフの皆さま、参加者の皆さま、楽しい時間をありがとうございました。以上「クリエイターのための権利の話」の感想(と、考えたこと)、sakimitamaがお送りしました。お疲れ様でした。

参考

木村先生のセッションで例に挙がっていた「マンション読本事件」が興味深かったので判例全文へのリンクをのせておきます。多少特殊ではありますが、内容的に面白いのでとっつきやすいのではないでしょうか。

目鼻立ちが小さい丸顔で頬が赤く,髪の毛を頭頂部で束ね,なで肩で足をハの字形に開いて立つことを特徴とする女性(キャラクター)

大阪地判平成21年3月26日(平成19年(ワ)第7877号)裁判所ウェブサイトより

裁判所独特の言い回しも見どころ。イラストの話がはじまり、双方の主張が記されたpp.6-17、まとめに入るp.72以降が注目ポイントです。

マンション読本 事件 判例全文
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/037482_hanrei.pdf

被告イラスト目録
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/037482_option1.pdf

原告イラスト目録
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/037482_option2.pdf
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/037482_option3.pdf